山岳地帯とキリスト教の関係
 

山岳地帯とキリスト教の関係

 美しいアルプスの山々と数多くの渓谷が続くオーストリア・チロル州は、ヨーロッパのほぼ中心に位置し、雄大な自然が広がることから「アルプスのハート」として世界中の人に愛されています。アルプス地方でも最大の規模をもつチロル州の古都インスブルックは、古くローマ帝国時代から交通の要衝として栄え、その後もアンデックス伯とチロル伯の統治下を経て、1363年からハプスブルク伯(ハプスブルク帝国)に重要な銀と岩塩をもたらすゆかりの地として最盛期を迎えるようになりました。一時は「ハプスブルク帝国の財布」と呼ばれるほど栄えたチロルですが、王族貴族が住んでいた比較的標高の低いインスブルックの都とは対照的に、アルプスの山岳地帯に住む農民たちの暮らしは過酷なものでした。総面積12650k㎡のうち88%はアルプスの山岳地帯と言われるチロルでは、人々は標高の高さと冬の寒さを忍んで孤立同然で自給自足の生活をしていました。そのため、チロルの渓谷では谷ごとに独自の文化や風習、方言などが誕生したのです。そして、この厳しく過酷なアルプスの環境の中で人々にとって唯一の心の支えとなったのがキリスト教でした。

 19世紀初頭に入ってチロル地方で近代的な交通網が発達し、さらに登山やウィンタースポーツのブームが始まって以来、チロルはその美しい自然で世界的に有名となり、今ではかつての貧しい山岳生活の面影は殆ど感じることがありません。しかし、チロルの人々の中には、今も自然と共存してきた長い歴史により育まれた自給自足の精神、何に対しても挫けない精神力の強さがあり、伝統を大事に守る意思が強く残っています。そして、過酷な山岳生活の支えとなったキリスト教は、今なおチロルの人々によって厚く信仰されています。現在でも人口約67万人の内90%以上がカトリック教徒と言われるチロルでは、年間を通して行なわれる祭事や教会暦は、昔と変わらず大切に守り続けられています。